聴覚支援学校 / ろう学校における補聴援助システム「ロジャー」導入の歴史

 1st Stage FM型補聴援助システムの普及(1996年~)

スイスに本社を持つ世界的補聴器メーカー「Phonak / フォナック)」社(現Sonova / ソノヴァ社)は、早くから子ども用補聴器の開発、普及に力を入れていました。その開発の歴史の中で同社は、言語習得期の幼児、小学生はもちろん、学生が学ぶ教室や講堂、野外フィールドでは、補聴器や人工内耳の機能だけでは聞き取りが難しい環境があることに着目し、FM電波を利用して、話し手の声を聞き手に直接届ける「FMシステム」を開発したのです。

 

欧米では40年以上前から愛用されているこのシステムは、日本では1996年に初めてフォナック・ジャパン社からリリースされ、多くのろう学校や聴覚支援学校に導入され、難聴児、難聴児を持つ保護者の方、教育現場に携わる職員の方々の支持を得てきました。そして「補聴器」だけでなく「FMシステム」の助成が可能な自治体も徐々に増えていったのです。


 2nd Stage デジタル補聴援助システム「ロジャー」の登場(2013年~)

従来の「FMシステム」のチャンネル設定の煩わしさや、FM電波の干渉しやすさを改善すべく、2013年、フォナック社は補聴援助システム「ロジャー」を世に出しました。デジタルワイヤレス技術により、設定も簡易となり、送信機1台で何台の受信機に対しても電波干渉せずに音声を送れるようになりました。多くのろう学校や聴覚支援学校でもFMシステムからロジャーへの入替えが進み、送信機の「ロジャーインスパイロ」、受信機の「ロジャーマイリンク」が導入されました。

 

またロジャーは、フォナック以外の他メーカーの補聴器 / 人工内耳への対応も可能な為、ロジャーは国内で唯一の補聴援助システムとして、多くの自治体や国公立機関における入札現場でも指名されるまでになったのです。


 3rd Stage 「合理的配慮」対応によりロジャー導入が進む(2016年~)

ろう学校や聴覚支援学校でロジャーに慣れ親しんだ生徒さんが、大学に進学することでロジャーの採用は大学現場でも拡がっていきます。折しも2016年4月には「障害者差別解消法」が施行され、公立の聴覚支援学校 / 聾学校や、国公立大学では「合理的配慮」が義務化、私立大学では努力義務化されました。(東京都の私立大学は2018年から都の条例により義務化されました)

 

そのタイミングでリリースされた「ロジャータッチスクリーンマイク」は、多くの大学で導入が進み、また聴覚支援学校やろう学校では、先行機の「ロジャーインスパイロ」との入替えも積極的に行われました。一方「FM型補聴援助システム」は2017年3月に販売終了となり、完全に「ロジャー」に道を譲ることとなるのです。


 4th Stage 「公 ➡ 個」「学生 ➡ 社会人」さらなる拡散(2019年~)

その流れにより、障がい者の雇用に積極的な企業でもロジャーの導入が進むこととなります。従業員43.5人以上の民間企業での障がい者雇用率は、2018年4月に2.2%、2021年3月からは2.3%へと段階的に引き上げれました。2019年に全日本空輸株式会社(ANA)様とソノヴァ・ジャパン社(旧フォナック・ジャパン社)とのコラボレーションで実現した「障がい者就労支援企画 ANA × フォナック 海外合同企業訪問」は多くの聴覚障がい学生の注目を集めました。

 

2018年にリリースされた「ロジャー セレクト」はグループミーティングなどで重宝するロジャー送信機ですが、利用者からは「もうセレクトなしの生活は考えられない」「セレクト持参で飲み会に参加するのが楽しみで仕方ない」などプライベートでも積極的に活用されているお声をたくさんいただいています。受信機も、2020年には補聴器にロジャー受信機の機能をインストールできる「ロジャーダイレクト」がリリースされました。


 5th Stage コロナ禍におけるロジャー、および新しい展開(2020年~)

2020年以降、世界が新型コロナウイルス感染症に見舞われ、社会生活も大きな変化を余儀なくされ、大学や企業でも「オンライン授業」「リモートワーク」が当たり前となりました。ロジャーはそういった「オンラインでの利用法」も提示され、コロナ禍でも一定の利用価値がありました。

 

またロジャーは聴覚障害だけでなく、APD(聴覚情報処理障害)への効果が実証されたり、 ASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠如・多動症)、UHL(一側性難聴)にも効くという事例が出されたり、多様な効果が認められるようになりました。

 

2022年1月には、新製品「ロジャーオン」がリリースされ、人気を博しております。さらに昨今では「UDトーク」「Google Live Transcribe」などの音声文字変換アプリの変換効率を高めるための外部マイクとしての利用法も出てきています。


 

(2021/11/06 元記事執筆 2022/10/09 追記修正)

 

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